フォーラム二部:韓国から強制北送された2人の脱北青年事件について日本で考える(2022年12月13日)

2022年12月13日〜14日にかけて「在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業63周年 新潟行事」が行われました。

 

12月13日のフォーラム二部では、「韓国から強制北送された2人の脱北青年事件について日本で考える」というテーマで、脱北者など六名が登壇し、脱北青年の強制北送事件についての見解を語り、活発な質疑応答がなされました。

石川学氏 (NGOモドゥモイジャ 副代表)

人権が認められない北朝鮮の人々が、普通の国の国民のように暮らせるようにと語る石川学氏
人権が認められない北朝鮮の人々が、普通の国の国民のように暮らせるようにと語る石川学氏

 今回、脱北青年2名が強制的に追い返されたという話を耳にして、人道的にいかがなものかと、まずはそこを思いました。また我々民族がいつまでこのような状態で生きていかなければならないのかを考えました。北朝鮮の独裁政権が存在する限り、今後もこのような人権問題はついて回ります。

 

 私達が取り組んでいる訴訟やプロジェクトは、北朝鮮の人権問題と繋がっています。送り返された青年たちが今後どうなるのかは目に見えています。北朝鮮では人権というものはありません。北朝鮮の人々が普通の国の国民のように暮らせるようにしたいと思っています。

姜峰順(カン・ボンスン)氏 (NGOモドゥモイジャ 韓国事務局長)

北朝鮮の人権問題解決のため、国際社会の協力を訴えるカン・ボンスン氏
北朝鮮の人権問題解決のため、国際社会の協力を訴えるカン・ボンスン氏

 2019年12月17日に、韓国でこのような非人道的な犯罪(二人の脱北青年の北への強制送還)が行われました。これは韓国の法律に違反することです。板門店から北へ戻されるということは、北朝鮮では他の国で捕まるよりも重大な犯罪として処罰されます。それを知りながら送還するのは本当に酷いことです。

 

 彼らは軍人ではなく民間人です。彼らが北朝鮮で殺人を犯したため、送り返されたというのですが、証拠は示されていません。通常脱北者は韓国で、国の機関によって7日から15日の調査を受けます。しかし彼らは3〜4日で調査を終え、送還されました。許されない行為です。身内でも粛清するような金正恩が支配する国に、彼らを正式な調査もせずに送還したことは、非人道的な人権蹂躙です。

 

 北朝鮮に渡った93,340名はひどい扱いを受けましたが、北朝鮮の住民たちも楽な生活ではありませんでした。独裁政権から逃れて脱北した青年に対して、何の根拠もない口実をつけて送還したこの問題は、国際社会が一緒に声を上げて、何としても解決しなければなりません。

 

 私が懸念するのは、韓国の政権が変わるたびに、北朝鮮の人権問題への対応が右へ左へと変わってしまう状況です。私達もいつかそんな境遇に置かれないだろうかと不安を感じることもあります。ぜひ、国際社会のご協力をお願いします。

李ソラ氏 (「ボトナム通り」リニューアルプロジェクト 実行委員長)

 私達が日本で在日コリアン“北送・帰還・帰国”事業の60周年行事(2019年12月13日、14日)を行った前の月にこの事件が起きました。この事件を知り私達は大きな恐怖を感じました。

 

 脱北者は北朝鮮を出て中国にいる時点では「いつ捕まってしまうだろうか」と、とても不安です。そしてようやくにして韓国や日本に入った時には、ものすごく大きな安心感を得ます。私も小さな子ども二人を連れて脱北しました。この事件は「(日本にいる)私や子ども達ですらも、いつかは自分も知らないうちに、こんな風に目隠しをされて送還されるのではないか」という恐怖を感じさせるものだったのです。

 

 日本にもたくさんの脱北者が暮らしています。みなさんもこの事件を「強制的に連れて行く」という点で、拉致問題の一環として捉えていただきたいと思います。こんなことが今も継続されているというのはとても悲しいことです。

 

 これは一人、二人の声で解決するものではありません。みんなで国際社会に向かって声を上げるべきだと思います。よろしくお願いします。

質疑応答

四名の脱北者を含む六名の登壇者が質問に答えた
四名の脱北者を含む六名の登壇者が質問に答えた

質問1:文在寅政権が脱北青年二人を強制送還した理由はどんなものでしょうか?また、送り返された二人はどうなっているのかという情報はありますでしょうか?

 

李ソラ氏:表の理由は彼らが小さな船の中で16名を殺害したというものです。当時、その証拠は確認されませんでしたが、現政権において詳しく調査をしていると聞きました。裏事情としては、文在寅大統領がある国際会議に金正恩を招待しようと考え、そのために行ったという情報も流れています。二人の青年のその後に関する情報は定かではありませんが、韓国の有名脱北YouTuberによれば、一人は精神的なショックから収容されてしまい、もう一人は保衛部に回され、北朝鮮全国で「脱北すると南から強制送還されるから脱北してはいけない」という講演をしているとのことです。統一部の正式発表ではないため、確認中です。

 

カン・ボンスン氏:証拠はないですが、信用性の高い情報筋から、彼ら二人はすでに命がないという話も出ています。

 

質問2:在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業が1959年に始まり、それ以降、約20年に渡って継続され、9万人以上の方々が渡りました。とても不思議に思うのですが、その20年間、日本ではまったく北朝鮮の情報がなかったために、継続されたということなのでしょうか?また、新潟市も日本の国も、間違ったことに協力してしまった結果になったため、あまり公にしたくないという後ろめたさがあるのではないかと勘ぐるのですが、いかがでしょうか?

 

山田文明氏:とても重要なご指摘です。北朝鮮へ渡った人々の80%以上が、1959年12月14日〜1961年までの2年間で渡っており、その後は激減していきます。その理由は、先に渡った人達から「来てみたらとんでもない状況だ」という手紙が届いたからです。北朝鮮は1960年の初めには手紙の検閲を始めました。それで今度は徐々に暗号で知らせるようになり、日本に残っている人に情報が伝わりました。しかしその一方で、当時は社会主義というものが良いものであるというイメージもありました。社会党・共産党は朝鮮総連と一緒に帰国事業を継続するんだと主張し、その力を簡単に無視できなかったこともあります。また、日本政府としても、日本自体が食糧難で大変であった時期、在日コリアンには左翼系の方が多いと見ていたり、生活保護の対象の家族もいたり、そういう方々が北朝鮮に帰ってくれたらありがたいということもありました。このようにいくつかの要因が重なって在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業が継続されました。しかし最も悪いのは、北朝鮮の実情が分かるようになってもなお、社会党・共産党を初めとして北へ人を送り続けたということです。これは罪が深いと感じます。

 

李ソラ氏:後ろめたさの問題ですが、在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業で送り出した方々の中には、純粋な気持ちで、彼らを”地上の楽園”と呼ばれる祖国に送り出したという方もいたと思います。そういう方ほど良心が痛んだと思います。そうであるからこそ、後ろめたく感じるだけにとどまらず、私達と共にこの人権問題を解決するために協力していただきたいと考えております。

 

質問3:私のように新潟に住んでいる者でも、ボトナム通りや在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業についてほとんど知りません。こうしてお話を聞いて初めて理解しています。このような状況ですが、どうやって在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業への理解を広げていこうと考えていらっしゃいますか?

 

川崎栄子氏:第二次大戦以降、在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業が最大の人権侵害だと認定されています。しかしそのことを新潟の方々がほとんどご存知ありません。ですから在日コリアン”北送・帰還・帰国”事業を形あるものとして歴史に残さなければなりません。これは自由や民主主義を守るための重要な証拠品です。そのためにリニューアルプロジェクトを始めました。なかなか新潟の行政の方々の了解を得られない中ですが、様々なご協力を得て、今年は議会に議題として挙げるというところまで前進しました。私達が行動することで、「何をやってるんだろう?」と関心を呼び、理解へとつながるのではないかと思っています。また、新潟市議会の先生方に対して講演をさせていただき、プロジェクトの目的やメリットをお伝えすることが、私がやらなければならないと思っていることです。人間が普遍的に持つべき自由や人権ですが、私達のプロジェクトを通して、新潟市がその本拠地になるように進めていきたいと考えております。