北朝鮮人権問題フォーラム2023を開催しました(12月13日)

2023年12月13日(水)14:00〜17:00、アートホテル新潟駅前にて、北朝鮮人権問題フォーラム2023が開催されました。

 

◯ 祝辞 エレオノール・フェルナンデス氏(ソウル国連人権高等弁務官事務所 人権官)

最初に国連として北朝鮮人権問題解決のために取り組んでいるソウル国連人権高等弁務官事務所のエレオノール・フェルナンデスさんが祝辞をくださいました。

 

ソウル国連人権高等弁務官事務所では北送事業は拉致問題と同様に北朝鮮による「強制失踪」という深刻な人権侵害としており、この問題の解決のために国際社会の連帯を訴えています。

 

また強制失踪の関係国が被害者のために調査などの義務を果たすように促すと共に、ソウル国連人権事務所においても被害者や関係者への聞き取りなどを通してこれら犯罪行為についての調査を継続的に行っています。

 

深刻な人権侵害に対しては無処罰であってはならず、刑事責任を追及する必要があり、事実を明らかにするための調査、被害者の救済のための賠償、再発防止のための制度の改革などが必要であるとしました。

 

これらの問題について国連が調査しまとめた資料を紹介しながら、この問題を国連が注視していることを伝えました。

◯ ビデオメッセージ 髙柳 俊男氏(法政大学国際文化学部教授/新ボトナム会顧問)

 

ビデオメッセージでは新ボトナム会の顧問でもある法政大学国際文化学部の髙柳俊男教授からいくつかの情報提供がありました。

 

1)かつて北送事業の「新潟県帰国協力会」で事務局長をしていた小島晴則さんがこの事業の問題に気づき、現在、七夕に北へ渡った方々へのメッセージを記した短冊をボトナム通りの柳の木に吊るす活動をしていること。

 

2)川崎栄子代表らが韓国の政府機関である「真実・和解のための過去史調査委員会」に申請書を提出し、北送事業に関する調査が開始され、その調査チームに研究者として情報提供したこと。

 

3)新潟放送では北送事業に関して、開始直後から放送しており、その一つとして「録音構成 ポトナム」という北送事業で離れ離れになる家族の苦悩を描いた30分のラジオ番組があり、この話は後に小説にもなった。この度、元々のラジオ番組と小説、そして自身も含む研究者のインタビューも合わせて新潟放送で特番として取り上げられることになった。(12/29(金)5:55〜6:50

BSNスペシャル「日本人妻 大原芳子さんの場合〜北朝鮮帰国事業と新潟〜」)

 

4)「ビヨンド・ユートピア 脱北」というドキュメンタリー映画が公開予定。実際に北朝鮮から中国、さらにベトナムやラオスを通ってタイに入り、そこから韓国へと脱北した家族の実際の様子をとらえたもの。

◯ 講演 川崎栄子氏(新ボトナム会代表/NGOモドゥモイジャ代表/AKU Japan代表理事)

メインスピーカーとして登壇した川崎栄子代表は、最初に自身が17歳で北朝鮮に渡るようになった動機や経緯に触れました。

 

そして北朝鮮では、経済的にはやっと命をつなぐ程度の食糧とは言えないような雑穀しか与えられず、極端な貧しさと、それに加えて完全な階級社会の最底辺に置かれた在日帰国者に対する社会的政治的圧力の酷さの中、精神に異常をきたす人、自殺する人がいたと語りました。

 

そのような中で「見猿・聞か猿・言わ猿」を徹底しながら何とか生き延びながら、脱北の機会を待ちましたが本当に難しく、60歳を過ぎてから命懸けの脱北を敢行し、日本に帰国しました。

 

その後、北朝鮮と「真っ向勝負」をするため、法律に訴えて北朝鮮と戦う道を選び、裁判活動に取り組んできました。

 

川崎代表は講演の中で、これまで5年間にわたり北朝鮮を相手取って行ってきた裁判において、今年(2023年)10月30日に東京高等裁判所で下された判決を読み上げ、報告しました。東京地裁では北朝鮮の人権侵害の罪を認めながらも「棄却」という結果でしたが、東京高裁では控訴人(原告側)の訴えを完全に認め、勝訴しましたと報告すると、来場者は大きな拍手を送りました。

 

また、裁判活動だけでなく、新潟市内の「ボトナム通り」リニューアルプロジェクトを通して、北送事業という北朝鮮による大変な人権侵害問題の証拠を目にみえる形として残すことを訴え、最後に国連の常任理事国制度を改め、一カ国に一票ずつの権限を与えることで、国際社会が北朝鮮による人権侵害問題を追及し、独裁政権を終わらせるように努力すべきだと訴えました。

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▼東京高裁判決(2023年10月30日)の要旨はこちら

https://www.shin-botonamu.org/kousaihanketu20231030/

◯ ビデオメッセージ 柳在豊氏(米国ワンコリア財団 会長)

 

今回の行事の後援団体であるワンコリア財団の柳在豊会長もビデオメッセージをくださいました。

 

柳会長は北朝鮮を相手取った裁判の良い結果を聞き、北朝鮮人権問題の生きた教訓を残すための「ボトナム通り」リニューアルプロジェクトの成功にも希望を持っていると語り、人々がこのプロジェクトの成就まで関心を持ってくださるようにと訴えました。

◯ 講演 池田正樹氏(横田めぐみさんとの再会を誓う同級生の会 代表)

「横田めぐみさんとの再会を誓う同級生の会」の代表である池田正樹氏は、拉致問題の解決が進まず、横田滋さん(めぐみさんの父)が他界され、最近の早紀江さん(めぐみさんの母)の健康状態に触れながら、時間がないこと、そして日本政府・内閣官房には、「自分の子供が拉致されたと思って本気になって動いて欲しい」と訴えました。

 

また、明るい性格のめぐみさんに関するエピソードや、入学式に関するエピソードを紹介しました。中学一年の合唱コンクールで一緒に歌った曲は「翼をください」であり、「悲しみのない自由な空へ 翼はためかせ 行きたい」「子どもの頃、夢見たこと 今も同じ夢を見ている」という歌詞に、現在のめぐみさんの心境もこうではないかと語りました。「翼をください」は同級生らによるチャリティコンサートでもめぐみさんを思いつつ歌われているそうです。

 

最後に池田氏が、早紀江さんがめぐみさんに送った肉声のメッセージを紹介すると、聴衆は涙しながら耳を傾けていました。

◯講演 ユ・ジョンスク氏(大邱脱北民ハンマウム 会長)

韓国から来日したユ・ジョンスクさんは脱北者として、自身の壮絶な体験を語りました。

 

ユ・ジョンスクさんは母子家庭で娘を育てながら「苦難の行軍」と呼ばれた北朝鮮の大飢饉の期間を通過しました。北朝鮮での生活に限界を感じ、長女が4ヶ月先に脱北し、遅れて自身と5歳の孫娘とが一緒に中朝国境の鴨緑江を越えて脱北しました。

 

頼れる先がなく孫娘が寒さで凍えそうであったため、とにかく頼れる人を探す中で何とか朝鮮族の人と出会い、先に脱北していた長女とも再会することができたそうです。

 

ところが隠れながら中国で過ごしていた最中、長女が中国公安の取り締まりに引っ掛かり、北朝鮮に強制送還されてしまいました。その後、一年8ヶ月の拷問と獄中生活の末に銃殺されてしまったそうです。

 

ユ・ジョンスクさんは、自由や人権もなく、今この瞬間も犠牲になっている北朝鮮の人々を国際社会が守ってくださいと訴え、金正恩は世界に前に断罪されなければならないと涙ながらに語りました。

◯ 「ボトナム通り」リニューアルプロジェクトについて 李ソラ氏(プロジェクト実行委員長)

李ソラさんは、新ボトナム会が進めている「ボトナム通り」リニューアルプロジェクトについての概要説明を行いました。

 

新潟日報本社から新潟港中央埠頭へと向かう約2キロメートルの道は現在「ボトナム通り」と命名されています。「ボトナム」とは朝鮮語で「柳の木」という意味です。柳には「遠くへ行ってしまう人が、無事に帰ってくるように」という意味があるそうです。

 

柳は水を多く必要とする樹木で、古くから川辺や海辺に広く生息し、新潟でも平壌でも多く生えていました。それが北送事業をきっかけとして共通点としてあったために、この事業を記念して第一次北送船が出発する前に北送者と関係者らが一緒に306本の柳を植えたことが、この「ボトナム通り」の由来です。

 

現在の「ボトナム通り」には、北送事業について簡単にだけ記したプレートが立っています。しかし私たちのプロジェクトでは、この北送事業が本当に多くの人々(93,340名。調査中)の人生を悲惨なものにしてしまったという結果をしっかりと記そうと考えています。そして「ボトナム通り」を訪れる人々が北送事業に対する正しい知識と自由や人権に対する意識を持つことができるようにと考えています。

 

また、「ボトナム通り」の柳の木をリニューアル(補植)し、七夕には、柳の木に北朝鮮で犠牲になった(なっている)方々の自由を願う短冊を飾り、世界へのメッセージを発信していきたいというものです。

 

新潟市を拉致問題、北送事業、特定失踪者など北朝鮮人権問題について世界に発信し自由と人権を訴える都市にしようというプロジェクトです。

 

多くの方々のご理解とご協力をお願いします。

◯ 講演 カン・ボンスン氏(NGOモドゥモイジャ韓国事務局長)

韓国から来日したカン・ボンスンさんは、父と兄が北送事業で新潟港から北朝鮮に渡ったのち、北朝鮮で生まれました。厳しい環境の中で父と兄が他界したのち、脱北を敢行し、今は韓国に住んでいます。(以下、本人のスピーチの要約)

 

”在日帰国者”であった父と兄は、とても酷い言葉で罵られながら苦しい生活をしました。北朝鮮の男性は朝鮮労働党に入党しなければ人間扱いされません。ですから2番目の兄は入党のために本当にどんな仕事でもしましたが、父が日本から来たということで、入党できませんでした。

 

北朝鮮の体制の中で被差別階級であるということは、何の夢や希望も持つことができないため、私の父はそのことを本当に気に病み、60歳を迎えられずに他界し、一番上の兄も54歳で他界しました。父と兄がいた新潟を訪れ、二人に対する思い出で胸がいっぱいです。

 

北朝鮮人権問題に関心を持って集まってくださった皆さまと一緒に、独裁者である金正恩を国際審判台に立たせるように、そして拉致問題を含め、北朝鮮の全住民を救い出すために活動していきたいと思います。 ありがとうございました。

質疑応答では参加者から活発に質問が投げかけられました。
質疑応答では参加者から活発に質問が投げかけられました。
質問に回答する登壇者(右から池田正樹代表、川崎栄子代表、エレオノール・フェルナンデスさん、通訳の櫻井愛子さん)
質問に回答する登壇者(右から池田正樹代表、川崎栄子代表、エレオノール・フェルナンデスさん、通訳の櫻井愛子さん)

休憩時間に国連人権事務所の担当者と話し込む川崎栄子代表
休憩時間に国連人権事務所の担当者と話し込む川崎栄子代表