北朝鮮の選挙のカラクリ(川崎栄子)

 

(YouTube「北朝鮮の極端的恐怖」2021年7月2日より)

皆様、こんにちは。

 

昨日、今日、毎日じとじとと雨が降っております。夕べから今朝まで、ずっと雨が降っていま したが、ついさっき止んだようです。東京都議会院選挙も三日後に迫って参りました。今日は、北朝鮮の選挙事情についてお話ししたいと思います。

 

北朝鮮では、選挙があるたびに100%投票、100%賛成という報道がされますよね。皆さまはいつも「ありえないだろ、そんなこと!」って、そう思っていらっしゃいますよね。その「ありえない」北朝鮮の選挙のカラクリというのを今日、お話ししてみたいと思います。

■午前0時から始まる選挙

私が北朝鮮へ行って初めて選挙に参加したのは、大学一年生だと思います。その時は、農村へ 仕事に行っている時でしたので、農民の方達と一緒に参加することになりました。だから立候 補者の推薦とか、その立候補者に対する内容とか、そういうのを知らないまま、ただ投票する だけ参加しました。

 

昔は、選挙の投票は、午前0時から行われました。全ての重要行事は午前0時から始められたのです。金日成の新年の辞というのも、午前0時から始められました。だから選挙は、前の夜から動員されるわけです。前日の夜から動員されて、その選挙が行われる農村の宣伝室というところの空き地には、人がみんな出てきて歌ったり、踊ったりしながら選挙の時間を待ちます。そして時間になりますと、みんな自分の組織別に並んで選挙所に入ります。

■反対票を投じるための鉛筆はあるが…

「これから選挙を始めます」という宣言の後、入って行くわけですが、選挙所に入りますと狭 い部屋の四隅には監視人が立っています。そして金日成の肖像画のある壁の下のところに投票 箱が置かれています。その横に小さなテーブルが置かれていたことを記憶しています。そのテーブルの上には、鉛筆が一本置いてありました。その投票用紙に書かれてある立候補者に賛成でない場合、ペケをするための鉛筆でした。でももしもペケをしたら、選挙所から出た途端に即逮捕ですよね。だからそこにペケをする人はいません。でも、形式でも鉛筆が置いてありました。その後、いつの頃からかその鉛筆さえも無くなってしまいました。

 

そして、選挙が終わった後はまた外で歌ったり、踊ったりしながら時間を過ごすのですが、朝 の8時ごろにはもう、中央放送から「全国の投票が100%賛成で終わりました。」という報道がされていました。「社会主義の大きな勝利の日です!」とか言いながらね。そういう風に、選挙が行われました。

■100%参加のために徹底して作られる選挙人名簿

大学にいる間、もう一度選挙に参加したようなのですが、そのもう一度あった選挙に対する記

憶はあまり定かではありません。

 

社会に出た後は、居住地単位で選挙に参加しました。そしてその居住地では、最初に選挙対策 委員会とかそういう組織がいて、まず選挙人名簿の作成というのが行われます。そこには、そういう資格のある人たちが動員されるのですが、職場からも動員されますし、専業主婦であってもそういう技能を所有した優秀な方が動員されていまし た。そして、選挙人名簿は徹底して作られます。その100%参加ということのためでしょうね。徹底して調べられますが、それは本当に警察の仕事の管轄だと思っています。

 

そして徹底して作られた選挙人名簿によって選挙の何日か前からは、その選挙所の前に張り出されます。 昼間は張り出されて、夜は警備が立ちます。その選挙人名簿を傷つける人がいないかということで、警備が立ちます。

■立候補者の推薦はなし、副案で一人推薦、というお決まりのパターン

そういう風にして選挙は始まるのですが、まず最初に立候補者の推薦というのがあります。日本などは届出があって、「私が立候補します。」という届出をしますよね。でも北朝鮮ではそうじゃなくて、立候補者の推薦会というのがあります。本人が立候補するのでは なくて、推薦をするわけです。その推薦会がある日は、職場でも時間を合わせてくれます。

 

居住地の道の公民館のような、そういう会議室に集まって推薦会をするのですが、会議を始め る時に愛国歌を歌い、金日成の歌を歌い、終わる時もそれは同じくです。そして、実行委員の人 たちが壇上に上がって、参加者達に「推薦したい人があれば、手を挙げて推薦してくださ い。」と司会者が言います。

 

でも誰も手を上げる人はいません。しーんとしています。暫くすると、誰かが手を上げて示さ れると、「実行委員会の副案があれば発表してください。」と言います。そして、その副案の 発表に賛成する人という可決を取ります。可決を取った後、副案を発表しますが、たった一人 を発表します。選挙ですから、複数でないとおかしいでしょ。ね。そうなのに、立候補者とし て発表されるのはたった一人なわけです。

 

今も雨の中を東京都議会議員選挙に立候補した方々は、「どうぞ私に一票。」と回っていらっ しゃいますよね。そういう光景は北朝鮮では有り得ないのです。本当に、たった一人しか発表 しなかった時は、本当に驚きました。「えっ。これって選挙なの?」選挙じゃないでしょう。 でもそれが選挙として進められるわけです。

■宣誓のような選挙演説

そして、その立候補者を発表すると、二人、三人の方がその立候補者に対する賛成討論という のを行います。そして会は終了になります。選挙が行われる前の日に、一度か二度くらい、そ の立候補者の選挙演説があります。その時も、職場から時間が保障されて参加することになる わけですが、本当にそれも型通りにはまった。「これから、立候補者の選挙演説を行います。」という発表があった後、候補者が立って「朝鮮労働党員である自分は、命を掛けて金日 成首相様の政治について行きます。忠誠を誓います。」という宣誓のような選挙演説をします。

 

そしてその日もまた、一人か二人はこの方に対する賛成演説もするわけです。選挙前の住人と 立候補者との接触というのは、そのような形で行われます。

■個人の家が選挙所になる

そして、選挙は居住地単位ですから、普通は個人の家が選挙所に定められます。決められた家 は、一室を選挙所としてしつらえるのですが、そこに動員された人たちが、その部屋を選挙所に相応わしくしつらえるために、色々な努力をします。そこには色々な物がいります。物が無い北朝鮮 ですから、住民から駆り集めるわけですよね。壁を仕切る物とか、テーブルクロスとか、色々 な物がいるわけですよね。私もいつも白いシーツを何枚も駆り出されていました。

 

そして、選挙所の前には、選挙の一週間ぐらい前からですかね、選挙人名簿というのが張り出 されます。その選挙所で投票する人達の名簿を張り出すわけです。張り出して、24時間警備をします。特に夜は、厳重な警備をします。その選挙人名簿を傷つけてはだめだ、ということで。

 

そして選挙当日には、最初の頃は、さっきも言いましたが、0時から始まっていたんですが、70年代に入ってからだと思いますが、8時からに切り替わりました。そして8時からに切り替 わってからは、朝5時ごろから外へ出ます。外へ出て、選挙所の前にみんな集まって、その時 も祝賀ムード、盛り上げないとだめですので、みなさん歌ったり、踊ったり、そういうことを します。

 

そして、時間が近づきますと、選挙人がみんな、自分の組織別に並びます。一番前には、その その選挙人の中で一番功労者、抗日パルチザン、参加者の家族だとか、朝鮮戦争に参加し た戦士の家族だとか、勲章を胸にいっぱい付けた人が一番前に立って、「これから選挙を始めます。万歳!万歳!万歳!」と三唱して始まります。

 

選挙所は個人の家ですから、靴を脱いで入ります。そうすると投票した後は、反対側から出な いとだめですから、係の人が靴を反対側までちゃんと運んでくれます。

■軽犯罪者は、政治犯にされないために選挙に来て捕まる

そうやって静々と投票が行われるのですが、その投票には、日常家にいない人もいるわけです。軽犯罪者、家に帰ると逮捕される、そういう人達も逃げ回っている人達もいるわけですよ ね。でも、その人達も選挙には参加します。選挙は参加しないと、即政治犯という風に切り替 わってしまうので、捕まったら政治犯収容所へ直行することになります。

 

だから、逮捕されることを分かっていても、選挙の日は選挙所に帰って来ます。自分の家に入 らなくても、選挙所には来て投票をします。でも、その投票所の周りには、警察が厳重に潜ん でいます。その人が投票を済ませるまでは、放っておきます。出て来たら、即逮捕します。100%投票の裏には、そういう事情もあります。

 

そういう風にして、選挙が行われて、北朝鮮の100%投票、100%賛成という世にも不思議な選挙結果が出るわけです。

 

今日はこれくらいにさせていただきます。ご視聴ありがとうございました。